閉鎖的な未成年

9月25日
自殺に失敗して閉鎖病棟に入院した日から
もうすぐ1年が経とうとする
すこし溶けた錠剤と麦茶を吐き出して
壁を殴っていたらだれかに手を握りしめられた
救急隊員に怒鳴られて、空き瓶が床に転がった
救急車に乗るとき蒼くてきれいな宙がみえた
あたしが運ばれてるこの救急車を
だれかも求めていたのかな
胃洗浄をして 活性炭を何度も吐いた 集中治療室
尿道の管を持ち上げられる度、脚に力が入った
寝苦しくて唸る度にナースコールを連打したら
しらないおじさんに裸をみられた
ベットの上で薄汚れた容器に排泄をした
看護師になんどもオレンジジュースを注いでもらって
30回は刺し間違えられた動脈の針と
漏れて肩を濡らす点滴に気付かないふりをして
虚ろな目で2日間天井を見つめた
どれほどみっともなかったのか
考えたくもなくて目を閉じていた
窓はなくて 朝は来なかった
はじめて車椅子に乗った
閉鎖病棟に送られているとき
「ああ、もうおわりだ」と思った
普通にはもう戻れないと
普通の中学生にはなれないと
鼻から細長い管を腸まで通して
水色の病院着を着ていた
髪の毛はベタベタに固まって
少ししか開かない窓から必死に空気を吸ったら
落ち着きがない とカルテに書かれた
つめたい病棟にはひとがたくさんいて
飛び降りて杖をついて歩くおばさんも
記憶をなくしたひとも虐めを受けたひとも
虐待されたひとも眠れないひとも首を吊ったひとも
誰かが夜暴れても泣き出しても
大丈夫だよと頭を撫でてくれた
ただ、繊細なだけでやさしいひとたちだった
面会に来た部外者を睨む目も
よわいひとたちだから団結していた
空気はいつも無機質でつめたくて
それでいてすこしだけ生ぬるくて
おんなじ毎日をおんなじ時間繰り返す
手を繋ぐのを強制した同級生の男の子も
刃物と下剤を共有した17歳の女の子も
無口でお菓子がすきな19歳の男の子も
生きる希望をくれた17歳の女の子も
みんな笑顔がとってもすてきで
いつもみんな他人のことを考えて
ひとりきりで泣いていた
ひとりきりで自らを傷つけた
大人になることを恐れていた
社会に戻ることは怖かった
他人に戻ることが怖かった
わたしたちはしらないふりをした

寝たふりをして22時には消灯
見回りがくる前に携帯と剃刀を隠そう
布団を被ればこぼれた涙には気づかない


おやすみなさい