遺書にはあなたの名前がある

彼女へ 僕はどうしてこうなってしまったのだろう。精神科の待合室でじっと考える。それはすべてあの女のせいで、あの女がいなければ、僕はもっとちゃんと居られたのかもしれない。あの女も、だ。 (まず、ごめんね。) すぅ,はぁはぁ。すぅ,はぁ18:40。Twi…

十二月二十五日

”一緒に死にませんか 東京” ___僕はその日、イブなのに激務を任されていた。残業代など出ない、真っ暗な会社で。珈琲をひと口飲んでパソコンを閉じる。それからコートを羽織って、マフラーを巻いて会社をあとにする。外ももうすっかり暗かった。芳ばしい…

入院記録#2

来週退院、ということになった。 やっとだ、やっと。泣いて喜んだ。 その次の日、同室の人が結核だった。 真横だったから、これから2年間、定期的に検査を受けることになった。 その次の日、同じ階でコロナ患者が出た。 隔離病棟に移された。 PCR検査をされ…

入院記録

点滴の針を何度も刺すこと、点滴が漏れること、そして腕がパンパンに腫れること、何度も採血をされること、手術のときの"ねむたくなる注射"、手術のあと麻酔が切れたとき、顎関固定を外したとき、200を超える抜糸をしたとき、化膿した場所を水で洗うとき、消…

自殺未遂から

お久しぶりです。 8月3日にODをして4階から飛び降りました。 そうしたら、顎と骨盤と足、腕が折れました。 5回手術しました。今も入院しています。 命が危なかったそうです、何とか生きていました。 前歯がありません。奥歯も。 口が開きません。腰に沢山管…

忘却

「いつの日かみんな私を忘れるんですよ、私と電話したことも、目を合わせて話したことも、手を繋いだことも、キスやセックスすらもぜーんぶ。そして彼等はあたらしい人とあたらしい恋をはじめるんです。全部はじめてみたいな顔しちゃって、時には“うまく出来…

死後について

人が死んだあとに、どうなるか考えていると自殺することが億劫になる。それは幸か不幸か、死後どうなってしまうのかなんて生きている人間には到底わからない。「悪い事をしたら地獄に行ってしまうよ」「あの人は良い人だからきっと天国に行ったんだね」「自殺をし…

火葬された後の拾いきれない粉屑は何処へ消えるのだろうね

満月を見れなかったせいで おおきな月が欠けていた 小さな箱に収まる、背の小さな母 火葬された後の拾いきれない粉屑は何処へ消えるのだろうね ゆすいだ歯磨き粉みたいに下水道にでも流す? それとも、愛しの人が煎じて飲んでくれる? もしもきみが死んでし…

夏が終わっても

何十回目の広告番組 黄色に光って慌ただしい まちがっても消さずにいて 夜は溺れてしまうから 布団の中でもがいている 夜はだんだんと濁って 月は二番目になってゆく 潰した缶は微かに反射して 今年が終わる あと32.5% コピーアンドペーストを繰り返して 無…

誰にも愛されないで生きるより

私が死ぬことは、 大きくなって飼えなくなった ミドリガメを川に離すような、 お祭りですくった飼えない金魚を 川に棄てるような、そういうことです 死ぬのは辛くない 死ぬのは苦しくない 誰のせいでもないし あなたのせいでもない 死ねないかもしれないけど…

ひかりをおいかけて

閉店を知らせるゆっくりとしたメロディ みなが外へ追い出されてゆく 真っ暗なホームの電球に虫が集まる 風をあつめて電車がとまる 人を迎え入れる生温い空の車内で 本を開いたまま目を閉じたひと 肩に頭を乗せて眠るこども イヤホンをして耳に蓋をしたひと …

よる、月、発生

はじける水のおと 白昼のしろいつき あつまるちいさな虫 払い除けて手を繋いだ 隠したままのWinston 土にうずまる銀杏 みずうみに浮かぶ鴨の群れ かくれているつもりらしく 水面に模様を描いてはきえる 枯れ果てた木々たち 紅色を踏んで歩く しらないふりを…

4月になれば

やっぱり1章ずつしか読めなくなっていた 藤代の名前はどうやって読むんだったっけ それさえも忘れていて どうにもいかずに頭をかいていた 煙草が燃え尽きる前に灰皿に押し付けた"恋は風邪に似ている" "気づかないうちに発熱をして いつかは冷めてゆく" "それ…

すきなひとが眠れますように

青くちいさなハルシオン 引き出しをあけたら蝶が飛んで そばに野良猫がみえたりした まぼろしみたいだね海は猫がたくさんいる そっぽばかり向いてごめんね 綺麗なひとが通る度 繋いだ手に力を込めたり そんなことしかできなくてごめんね この海沿いのカフェ…

ママへ

ねえママ、あたしはどんな子だったかな きっといいこじゃなかったね 先生からもらった手紙をママはいつもみないから バレないように幼稚園のトイレにながしてた あのときすごく怒られたんだよ ママの料理をたべたことはないけど きっとお兄ちゃんはたくさん…

閉鎖的な未成年

9月25日 自殺に失敗して閉鎖病棟に入院した日から もうすぐ1年が経とうとする すこし溶けた錠剤と麦茶を吐き出して 壁を殴っていたらだれかに手を握りしめられた 救急隊員に怒鳴られて、空き瓶が床に転がった 救急車に乗るとき蒼くてきれいな宙がみえた あた…

幻の月をみていたような

8月32日にいる夢をみてた ラボナの過量摂取をしようか ふたりでプラトニックにいよう 明日も明後日も来年もきっと 8月32日には行けない 永遠の夏休みなんてない 雨が夏を拐っていくんだ 夏は流れていってしまう 神様のボートに乗らないで 風のない水際で見送…