よる、月、発生

はじける水のおと
白昼のしろいつき
あつまるちいさな虫
払い除けて手を繋いだ
隠したままのWinston
土にうずまる銀杏
みずうみに浮かぶ鴨の群れ
かくれているつもりらしく
水面に模様を描いてはきえる
枯れ果てた木々たち
紅色を踏んで歩く
しらないふりをして
うすくらい院内
コーヒーのにおい
重なっては離れてゆく
やけに速い心音
うつむいたまま
全部気づいているの
なにかが削られていて
わかんないのは私だけじゃないよね
煉瓦がおれんじ色に染められて
よるが月をひからせてゆく
だれも置いていかないように
まるごと包んで持ち去ってゆく
かくれんぼなんかできずに
連れ去られてしまう
そこに発生した
怖いひとだと思っていた
おれ、クリスマスまでに退院するんだ と
きみもそうしたらいいよ と
やさしいかすれた声でほほえむ
紐を解くようにとろけて
別れはすてきなんだ と
どんな形でも
くるしくてたまらなくても
すべてを飲み込んで
きれいなものだけ吐き出そうか
宝物になる、きれいな
ぴかぴか光る、きれいな
星をかぞえていたいな
なにも、わすれないように
わすれませんように
すべてが幻だとして
夢から醒めてしまっても
目の淵から星屑を零しても
あなたのことを、おぼえていたい