ひかりをおいかけて

閉店を知らせるゆっくりとしたメロディ
みなが外へ追い出されてゆく
真っ暗なホームの電球に虫が集まる
風をあつめて電車がとまる
人を迎え入れる生温い空の車内で
本を開いたまま目を閉じたひと
肩に頭を乗せて眠るこども
イヤホンをして耳に蓋をしたひと
ゆっくりと息を吐いている
時間は止まったみたいで
車体が揺れるのを見つめていた
湖にひかりが反射していて
ひかりを追いかけていた
微かにアルコールの匂いが漂う
電車をおりてもついてくる
わざとらしい蛍光灯の灯りを
知らない顔をして振り切っている
無人駅の改札に女の人が立っていた
黒いワンピースを着て笑っている
幻想なんだね、しっているよ
階段を上がり終わる前に
後ろに倒れてしまえば
あたしにあえるよ
なんて
できないことを言わないでよ
女の人をすり抜けて
22時をすこしずつ刻んでゆく
胸がぐらぐら苦しいよ
今すぐ抱きしめてほしかった
今すぐ殺してほしかった
殺されるのを期待して
真っ暗なほうへゆく癖も
いつまで経っても治んないや
煙草の火はなかなかつかなくて
それでも煙は斜め上に消えてゆく
元旦に飾られた枯れることの無い造花を
撫でて歩いていた
うしろを何度も振り向いて
不審なのはあたしみたいね
よるは続いている
缶コーヒーを買ってみたりした
珈琲なんか苦々しくてきらいなのに
ずっとずっと甘かった
甘くて堪らなかった
飲みきる前にこぼしちゃった
アスファルトに染みをつくっている
ちいさな染みは拡がってゆく
声を殺して唇を噛んでいた
3等分されたつきがこちらをみている
ほんとは全部気づいてるんでしょ
愛しいときに近付いてくる手も
今ではわからなくなっちゃった
首を絞めて
殺してしまいたかった
みずからの首さえ絞められ
殺されてしまいたかった
押し潰してしまいそうで
大きな愛は3等分できなかった
どれだけ泣いてみても
誰も気にかけてくれない社会が
どこにも戻れない経過が
愛おしかったりした
思い出してほしい
たとえばわたしの匂いだとか
たとえば不揃いの前髪だとか
やけに古臭い煙草の香りだとか
さよならって柔らかく言う顔も
わたしにはわからないな
ほんの少し夢をみていたい
ひかりは少しずつきえて
掴めない星たちが
まぶたの裏へとすらすら抜けていった