火葬された後の拾いきれない粉屑は何処へ消えるのだろうね

満月を見れなかったせいで

おおきな月が欠けていた

 


小さな箱に収まる、背の小さな母

 

火葬された後の拾いきれない粉屑は何処へ消えるのだろうね

ゆすいだ歯磨き粉みたいに下水道にでも流す?

それとも、愛しの人が煎じて飲んでくれる?

 


もしもきみが死んでしまっても

わたしは葬式なんていけないと思う

きみの黄色くくすんだ肌なんてとてもじゃない

 


君が死ぬことは、私が許されない

君を許すことも、永遠にできない

 

 


「あのさ、もしも…」って

ずるいことばかり尋ねてしまうね

きれいなことばかり求めてしまうよ

どうしても生きていられなかった

でもどうしても死ねやしなかった

 

なんでも出来ちゃいそうな夜が何度も訪れたんだよ

消えることさえ簡単そうな人混みに

街頭に溺れるばかりの街並みに

新月を探すような最小の脳内に

白々しい君の顔を浮かべるばかりに

また私の曖昧な記憶を文字にしている

きみの小さな頭にある抱えきれない大きな闇は

私の言葉選びさえ幼稚になるその作り込まれた思考回路は

私が聞いて意味があるものだったのでしょうか

 

 

 

夏が終わっても

何十回目の広告番組 

黄色に光って慌ただしい 

まちがっても消さずにいて

夜は溺れてしまうから 

布団の中でもがいている 

夜はだんだんと濁って

月は二番目になってゆく

潰した缶は微かに反射して

今年が終わる   あと32.5%

コピーアンドペーストを繰り返して

無茶苦茶な長文を君に贈る

この言葉はきみにだけじゃない

よわい部分にかぶりついて

夏が終わったら逢えますか

返事なんてしなくていいよ

もっとあたしを傷つけてね

 

 

 

 

 

誰にも愛されないで生きるより

私が死ぬことは、
大きくなって飼えなくなった
ミドリガメを川に離すような、
お祭りですくった飼えない金魚を
川に棄てるような、そういうことです
死ぬのは辛くない
死ぬのは苦しくない
誰のせいでもないし
あなたのせいでもない
死ねないかもしれないけど
もしかしたら死ねたらいいなって

誰にも愛されないで生きるより
誰かに愛されて死ぬほうがずっといい

死にたい夜を乗り越えて
愛しさを口から溢れさせないように
大量の睡眠薬を飲んだのにな
たくさん手首を切ったのにな
拙い呼吸は美しかった
満月は綺麗だったね

ひかりをおいかけて

閉店を知らせるゆっくりとしたメロディ
みなが外へ追い出されてゆく
真っ暗なホームの電球に虫が集まる
風をあつめて電車がとまる
人を迎え入れる生温い空の車内で
本を開いたまま目を閉じたひと
肩に頭を乗せて眠るこども
イヤホンをして耳に蓋をしたひと
ゆっくりと息を吐いている
時間は止まったみたいで
車体が揺れるのを見つめていた
湖にひかりが反射していて
ひかりを追いかけていた
微かにアルコールの匂いが漂う
電車をおりてもついてくる
わざとらしい蛍光灯の灯りを
知らない顔をして振り切っている
無人駅の改札に女の人が立っていた
黒いワンピースを着て笑っている
幻想なんだね、しっているよ
階段を上がり終わる前に
後ろに倒れてしまえば
あたしにあえるよ
なんて
できないことを言わないでよ
女の人をすり抜けて
22時をすこしずつ刻んでゆく
胸がぐらぐら苦しいよ
今すぐ抱きしめてほしかった
今すぐ殺してほしかった
殺されるのを期待して
真っ暗なほうへゆく癖も
いつまで経っても治んないや
煙草の火はなかなかつかなくて
それでも煙は斜め上に消えてゆく
元旦に飾られた枯れることの無い造花を
撫でて歩いていた
うしろを何度も振り向いて
不審なのはあたしみたいね
よるは続いている
缶コーヒーを買ってみたりした
珈琲なんか苦々しくてきらいなのに
ずっとずっと甘かった
甘くて堪らなかった
飲みきる前にこぼしちゃった
アスファルトに染みをつくっている
ちいさな染みは拡がってゆく
声を殺して唇を噛んでいた
3等分されたつきがこちらをみている
ほんとは全部気づいてるんでしょ
愛しいときに近付いてくる手も
今ではわからなくなっちゃった
首を絞めて
殺してしまいたかった
みずからの首さえ絞められ
殺されてしまいたかった
押し潰してしまいそうで
大きな愛は3等分できなかった
どれだけ泣いてみても
誰も気にかけてくれない社会が
どこにも戻れない経過が
愛おしかったりした
思い出してほしい
たとえばわたしの匂いだとか
たとえば不揃いの前髪だとか
やけに古臭い煙草の香りだとか
さよならって柔らかく言う顔も
わたしにはわからないな
ほんの少し夢をみていたい
ひかりは少しずつきえて
掴めない星たちが
まぶたの裏へとすらすら抜けていった

よる、月、発生

はじける水のおと
白昼のしろいつき
あつまるちいさな虫
払い除けて手を繋いだ
隠したままのWinston
土にうずまる銀杏
みずうみに浮かぶ鴨の群れ
かくれているつもりらしく
水面に模様を描いてはきえる
枯れ果てた木々たち
紅色を踏んで歩く
しらないふりをして
うすくらい院内
コーヒーのにおい
重なっては離れてゆく
やけに速い心音
うつむいたまま
全部気づいているの
なにかが削られていて
わかんないのは私だけじゃないよね
煉瓦がおれんじ色に染められて
よるが月をひからせてゆく
だれも置いていかないように
まるごと包んで持ち去ってゆく
かくれんぼなんかできずに
連れ去られてしまう
そこに発生した
怖いひとだと思っていた
おれ、クリスマスまでに退院するんだ と
きみもそうしたらいいよ と
やさしいかすれた声でほほえむ
紐を解くようにとろけて
別れはすてきなんだ と
どんな形でも
くるしくてたまらなくても
すべてを飲み込んで
きれいなものだけ吐き出そうか
宝物になる、きれいな
ぴかぴか光る、きれいな
星をかぞえていたいな
なにも、わすれないように
わすれませんように
すべてが幻だとして
夢から醒めてしまっても
目の淵から星屑を零しても
あなたのことを、おぼえていたい

4月になれば

やっぱり1章ずつしか読めなくなっていた
藤代の名前はどうやって読むんだったっけ
それさえも忘れていて
どうにもいかずに頭をかいていた
煙草が燃え尽きる前に灰皿に押し付けた

"恋は風邪に似ている"
"気づかないうちに発熱をして
いつかは冷めてゆく"
"それは逃れられないものだ"

その文をみて、怖くなったんだ
わたしの言葉では表せない関係は
いつかは言語を作るよといった関係は
いつかは終わってしまうのかな
例外になんかなれないかもしれない
やっぱり次の章には進めなかった
読まなければよかったとすら思えた
カーテンが揺れて乾いた葉が舞った
秋の終わりを迎えていた
すっかり冷えきった指先を
なんとか温めようと袖に隠した
すべてを隠していたかった

綺麗な人のことを思い出していた
本を貸してあげると言われていたんだ
綺麗な言葉を発するひとだった
どこに住んでいるのかもしらない
彼が誰なのかも知らなかった
本の名前は忘れてしまったけれど
去年のクリスマスに自殺未遂をしたと言った
こんなふざけた幸せなんか終わらせてしまえと
それがすごく美しく見えたの
いつか貸してほしい
そんなやり取りをしたまま
日が経つにつれて気づけば
彼は詩的な表現をするわたしを嫌って
甘ったるい文章だ、酔いそうになる
そうやってみずからに一生酔っていろ と
そう呟いてあっけなく連絡をなくした
そのときから、自分の感性を愛せなくなった
彼のために読んでいた文庫本を破いて捨てた
もう思い出したくもないことだった
あの頃はきっとふつうじゃなかったんだって
そう思うしかなかったの

ふつうとはなんなのだろうか
誰かはただの言葉だと言った
誰かは生きてゆくことだと言った
誰かはそんなものないと言った
そんなことわたしはなんにも知らないように
彼もなんにも知らなかった
例えば 苗字も、漢字の在り方も
住所や電話番号すら知らない
けれどそれでよかった
それでも愛しいと思えている
知らなくたっていいこともある
知っていたいこともあったんだね

嫌いなものなんか知らなくていい
好きなものだけ知っていたい
それをお揃いにしたかった


夢に溺れていたかった


もしもし、元気?
祖母の弾んだ声が反響する
襖はちっとも音を防いでくれない
また よるに目が覚めてしまった
ベットに沈むとふわりと頬を撫でた
クマのぬいぐるみ
自分で買ったあの大きなぬいぐるみに
しずかにキスをした
寂しいときにキスをした
気づけば毎日の習慣になっていた

外に出て、駐車場をぐるぐると回ると
嫌でも閉鎖病棟が目に入ってくる
ときどき窓に人影が映ると
恥ずかしくなってしゃがんでしまった
なにに怯えているのだろう
それでも、夕方の日に沈むそれは
なによりもあたたかく見えた
なによりも輝いて見えた
無機質のくりかえしのなかでも
朝はきていた
軌道に沿ってゆっくりと廻っていた

あの夜をおぼえている
閉鎖病棟の、小さな部屋だった
わたしだけの、わたしだけに作られた部屋
中学生 として 唯一いれる部屋
そこにいればなにも怖くなかった
叫び声も泣き声も聞こえなかった
あの日もそこで勉強をしていた
中学2年生、理科、社会、数学
いつもの、わたしだけの夜だった
暗くて窓すら開かない 一人だけのよる
突然光が射したとき
ドアが開いたのだと気づいた
イヤホンをはずして振り返ると
顔を真っ赤にして泣く女の子が立っていた
わたしより3つも年上の彼女は
肩を震わせ、わたしの名前を呼んだ
最後の助け舟のように、わたしを呼んだ
看護師は困惑したようにこちらをみていた
そのときに気づいた
わたしはひとりにはなれないと
だれもわたしをひとりにはしてくれないと
都合よく扱われるのだと
彼女の幻覚と幻聴、過呼吸を治して
大丈夫だから、大丈夫だからね と
小人なんかいないよ わたしだけをみて と
毎日、毎日 そんなふうに手を握って、説得をして
意識が戻った彼女を抱きしめたら
それで出番は終わってしまう
あとは看護師が部屋に連れてゆくだけ
自室でねむらせて また朝が来る
そんなくるしい夜を繰り返しても
だれもわたしを褒めることはなかった
この病棟の主人公はその女の子だった
わたしは彼女Bくらいで
もしかしたら登場すらカットされている
そんな人生なのだと感じた
私が主人公になることなんて
この先ないと感じた

だれもいなくなった大広場は
テレビのひかりだけがチカチカ光っていた
深夜2時に重たいカーテンに隠れて
うっすらと見える星空をみていた
そのわたしに誰も気づいていなかった
ずっとずっと孤独だったの
ほんとうは気づいてほしくて
主人公になりたくて
何度も手首から血を流して
何度もわけもわからない薬を飲んで
何度も脱走をした
ヒモを持って首を吊る場所を探した
その側を看護師は通り抜けていった

もうわかっていた

吹き抜けから見える空を
灰色から落ちていく水滴をみていたら
やっと気づくことができたの
わたしは主人公じゃなかった
主演にも、主体にもなれなかった

わたしはこのひとたちにはならないと
将来はわたしみたいなひとを主人公にしてあげるんだと
わたしを、14歳のわたしを抱きしめてあげるんだと
強く思っていた、それだけで息をしていた
そんな夜が来るはずがないことなんて
気づきたくなかった
生きている意味なんかないことを
気づきたくなかった




ちいさいころ、夢をみてた

ファーストキスも初夜も結婚する人と迎えるのって
短冊にはすきなひとと結婚できますようにって
はじめてのデートはプラネタリウムだとか
遊園地、映画館、動物園、水族館だとか
ううん、別におうちでもいいの
手を繋いでいられたらいいな って
ディズニーランドで膝を着かれて
プロポーズをされますように、
こんな家も環境も全て棄てて
16歳で結婚をしたいなあ って
すきなひとと逃げていたいなあ って
そんな もも色の綺麗な夢だったんだ

すべて叶えてあげれなかった
すべて壊れてしまったよ


幼少期の願いすら叶えられなかったわたしに
わたしを、救えるのかな


きっと結果はでている
いつでもそれは決まっている
もうすべて忘れてしまおうと思った
目の前のひとだけ愛していようと思った
それだけでいいと思えたの
いつかは無くなるかもしれない
愛するひとが死ぬことにさえ気づかないかもしれない
それなら、そのいつかにわたしも死んでしまえばいい
そうしたらもう辛いことなんか起きないでしょう
きっと幸せなまま終われるって思うの



ねえ、将来のわたしへ


隣に愛するひとがいるわたしへ

今のわたしを忘れないで

わたしのこと覚えていて

思春期の淡い思い出になんかしないで

彼をあいしていてよ




15歳の、わたしより

すきなひとが眠れますように

青くちいさなハルシオン
引き出しをあけたら蝶が飛んで
そばに野良猫がみえたりした
まぼろしみたいだね

海は猫がたくさんいる
そっぽばかり向いてごめんね
綺麗なひとが通る度 繋いだ手に力を込めたり
そんなことしかできなくてごめんね
この海沿いのカフェ、夏祭りのとき大変なんだよ って
お祭り、誰ときたの?
聞けなかったな

雨のにおいがする
半分にされた月をみて
月が綺麗だね だとか
やっぱり照れくさいよ
風が冷たい
空はクレヨンの蒼じゃなく
何にもわからないふりしないで

おれんじいろの踏切は
赤色が転々とうつりかわる
だれも来ないのに待ち合わせをしているの

昨日より月はまるくなってゆく
ビスケットをきれいに半分こできないみたいに
月は満ちたりてゆく
電車はすぐに消えてしまう
もう一本、遅らせて帰ろうか
今日は何日だろう
もうどこにもいきたくないよ
ふたりきりの孤独でいたいの
ずっとこの気温だったらいいのに って
秋がすきだったね

眼にうつるネオンは縦長に歪んでく
ひかりはまるくなる 革靴のふちが波を立てる
そんなこと知りませんように


空を泳ごうか
泳げないじゃん、溺れてしまうよ
そのときは助けにきてくれるでしょう


じゃあ、またね
次はいつ会えるかな


神様、どうか

すきなひとがこわい夢をみませんように
すきなひとがよく眠れますように